世の中に悪い人はいない

若くて顔のいい男の生気を吸って生きる魔女が理性ゼロで書いてる。

読書感想文『さまよう刃』~刃を握っているのは誰なのか~

お世話になっております。筆者のらっこです。

 

今回のテーマはこちら!

 

 

読書感想文『さまよう刃東野圭吾~刃を握っているのは誰なのか~

 

らっこ恒例、自軍の出演作品予習感想文です。

※ぼやかしてはいますが、多少作品のネタバレが含まれますのでご注意ください。

 

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今夜22時からWOWWOWにてオリジナルドラマの第一話が配信されますが、読み終わったのはついさっきです。原作予習ブログとしてはギリギリ間に合ったといったところです。

 

今回は物語の内容にはあまり触れず、作品を読んで考えたことをつらつら語っていきたいと思います。もはや自分用メモです。

 

 

 

初見の印象

文庫本にして500ページ弱とやや厚めで、読了に時間がかかるかなあと思いましたが、文章がストレートで会話文が多く、大変読みやすいと感じました。読書とか久しくしてないぜって人でもするっと読めると思う。

また、三人称多視点で書かれ、多様な登場人物に視点が切り替わるので展開に飽きがなく、常に脳が興奮状態のまま怒涛の展開を追えるので気づいたらめっちゃ読み進めています。個人的には一気読みがおすすめです。この息つく間もないほどの物語への没入感を味わってほしいのと、重要な登場人物が多いから期間を開けて途中から読んだときに名前を忘れちゃうと悲しいからです。

様々な社会的立場の登場人物の視点から事件が細かに語られるので、読者から見た状況や心情の透明性が非常に高いです。だからこそ、読者に様々な感想を抱かせ、この作品が多くの議論を呼んだんじゃないかなあと思います。

 

古くから小説の題材にされ続けてきた「復讐」を取り上げた作品で、私も復讐が題材の小説はいくつか読んできたつもりでしたが、やはり登場人物の強い悲しみや憎しみ。迷い、板挟みの焦燥、やるせなさ、反吐が出そうな行為の苦しい描写は色あせず胸に来ます。

「復讐」に伴うこの辺の心情や情景の描写は、作者によって描き方やどこにスポットを当てているかに個性があって(当たり前だけど)読み比べたら面白いだろうなあと思いました。

私がぱっと思い出せた「復讐」が題材の小説をメモ代わりに貼っておくことにします。どっちもホラー要素が強めかな?

 

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また、角川文庫のカバーの背表紙に「事件は予想外の結末を迎える」とあります。

実際に世の中から見た事件の結末は、展開を追ってきた読者からしたらある程度予想できるというか、想定の範囲内にある結末でした。

しかし、物語の中にさりげなく仕組まれた小さなひずみが秀逸でした。最初は全く気付かれないように仕組まれていて、終盤に近付くにつれて「ん?」という違和感「まさか」という疑いが頭をもたげ、最後の数ページで「そういうことか!!だましやがったな!!」となる快感がたまりませんでした。推理小説やミステリーにおいて、筆者の巧みな文章によって見事に騙されることは快感なんです。立ち読みでも最後の方は絶対読まない方がいい。損するので。

その小さなひずみは事件そのものに大きな影響は与えません。しかし、確かに『さまよう刃』が孕んでいるテーマに迫るものだったと感じています。

 

 

正義という名の刃

読みながら、「果たして正義とはなんぞや」と大の字になってしまいました。

少年法」そのものへの疑念がむくむくと湧き起こってしまった(子ども教育に関わる者としてまずいでしょうか)のもあるし、果たして法律って、警察って誰のためにあるんだろうなあと思いました。

罪を犯した少年(少年法では20歳未満の全てのもの)は基本的には「必ず更生する」という前提のもと、青年とは違った扱いを受けます。事件を実名報道されない、罪は青年のものより軽くなる、少年を取り巻く環境の改善と性格の矯正を目的とし、逮捕と言いながら一定期間保護されているという状態です。

少年は間違いを犯す、そして少年ならば更生させられるという前提のもとでなされる対応は、確かに温情とか人間という生命への希望がある話なのかもしれないけど、じゃあ被害者はそれで満足するのかって話になると首を振るしかない。

伴崎は未成年です。しかも、意図的に絵摩を死なせたわけではなく、たとえばアルコールや薬の影響で正常な判断力が損なわれていた、などと弁護士が主張すれば、刑罰とはとてもいえないような判決が下されるおそれがあります。未成年の更生を優先すべきだ、というような、被害者側の人間の気持ちを全く無視した意見が交わされることも目に見えています。

事件の前ならば、私もそうした理想主義者たちの意見に同意したかもしれません。でも今の考えは違います。こんな目に遭って、私はようやく知りました。一度生じた

「悪」は永遠に消えないのです。たとえ加害者が更生したとしても(今の私は、そんなことはあり得ないと断言できますが、万一あったとしても)、彼等によって生み出された「悪」は、被害者たちの中に残り、永久に心を蝕み続けるのです。

最愛の人の命を奪った少年が更生したところでこっちは報われないし、それが理不尽な理由であればそもそもそんな奴が更生できるかいと怒るのは自然です。実際、小説を読んで加害者の快児を擁護できる読者はなかなかいないんじゃないかと思います。むしろとっとと殺されてしまえと思う読者が大多数なんじゃないかと思うのですが、東野先生の巧みな人物描写によって快児が救いようのない少年として描かれているからこそこの作品は多くの議論を呼んだんじゃないかなあと思います。快児が致し方なく罪を犯した情状酌量の余地のある人間として描かれていたならば、「法律」「警察」というある意味確固たる正義の象徴であるものに疑念が湧く展開にはならなかったと思うんです。

 

確かに警察は犯罪者を逮捕してくれるけど、被害者の悲しみややるせなさなど、最も負担の大きい心情の方を救ってはくれない。被害者の憎しみの対象を取り上げて「あとはこっちで何とかするからもうこの話はお終い」と言われてるようなもんです。

「法や警察は本当に被害者を救ってくれるのか」

東野先生のメッセージを菅野快児の姿から感じた気がしました。

先に紹介した『復讐したい』とセットで読むとまた考えに変化や広がりがあるかもしれないです。

 

自分は一体何を望んでいるのか―。

和佳子自身にも答えが出せないでいた。

人は皆、正義という名の刃をもっていると考えます。

それは自我が出始めた幼少期から本人の希望を問わず持たされるものだと思います。

 

うちの園でよくあるのが、どうしてお友達を叩いたのか聞くと「だって○○君がいけないことをしたから止めようと思った」と返されるパターンです。

この子は正義感が強い、と言えますが、倫理的な存在かと言われれば未熟だと思います。自分の正しいと思うことだけを一本筋で信じていて、他人の状況や正しさには無関心です(子どもはそういうもんです)だからこそ困るケースは多いです。

 

さすがにこの感覚のまま大人になる人はそうそういないかなと思いますが、大人も大人で「誰が悪い」「何が正しい」の議論には常に晒されます。

自分の正義で他人を傷つけたり、他人の刃を向けられて傷ついたり、誰かがお互いの刃で傷つけあう姿を見たりして生きてきます。世の中は理不尽なことがあまりに多すぎるので。

その度に真摯に向き合い、正義の形を変容させていくことが人として重要なのではないのかと思いました。

作品名は「さまよう刃」です。理不尽な事態に遭遇するたびに、結論を出せず自分の正義感をさまよわせることで、人は倫理的になっていくのではないでしょうか。そして迷う中で自分なりの倫理感をもつのではないでしょうか。

実際に、『さまよう刃』に登場する人々の正義感は多様で不安定で、時折暴走します。その多様な人物の倫理観に触れられることだけでも、この作品の価値は大きいと思っています。

 

 

倫理には決まったパターンはないと思っています。

いろいろな出来事にぶつかるたびに多面的に考え、判断し、謝り、罰せられ、責任を自分でとる。それらの繰り返しによる倫理観の結晶化を怠ってはいけないなあと、作品中の人々を見ながら思いました。なんというか、漂う生き方じゃなくて本気で生きよう。

そして自分では体験できないような倫理観が揺さぶられる疑似経験を積むためにも、読書っていいんだろうなあとも思いました(決して出版関係者の回し者ではないですよ)

 

HiHi Jets井上瑞稀が中井誠を演じるということ

私が本書を手に取ったきっかけは、ぶっちゃけ井上瑞稀がオリジナルドラマに出るから、それだけでした。おそらくその動機で本を手に取る人、作品を見る人も多いと思います。

はじめ、私は井上瑞稀がどの役を演じるのかの情報を入れないまま作品を読み始めました。そして早い段階で「この人物だろうな」を定めてから、読了後にキャスト情報を読みました。当たっていました。

 

二十歳になったばかりの井上瑞稀が、絶妙に有罪の立場にあって多くの人に翻弄され、流され、迷う若者を演じる意義は大きいんだろうなと思いました。

井上瑞稀が演じる役を、中井誠が生きる世界を、HiHi Jetsのファンである多くの人が見ます。未成年のファンの方もたくさんいるでしょう。

上から目線に聞こえるかもしれないけど、若い人にこそ中井誠や優佳の姿を見て何を考えたのか聞かせてほしいなあ、考えを発信してほしいなあと思います。

私はもう、「こんな世代を育てた大人に責任がある」と言われる側の立場になってしまう側の人間なので……。読むのが遅かった。

 

 

最後に一言(むしろこれがこのブログで一番伝えたいことです)

 

 

オタク絶対にオリジナルドラマのスクショとか録画とかSNSに載せるんじゃねえぞ

 

 

 

さて、「個人的すぎるJr.大賞」虚妄部門の回答を回収中です!

締め切りは5月17日です。良ければご回答、当該ツイートの拡散をよろしくお願いします。

 

 

次回もお楽しみに!